外観・構造と内装
外壁は、大きな傷みも少なかったため洗浄のみとした。
屋内に目を向けると、空き家となっていた期間が長いだけに設備を含め傷んだ箇所が目立った。
しかし部分部分にオーナーの思い入れも感じられたため、既存の素材を極力再利用しながらも全面改装を行うこととした。
間取りは、新築から45年を経ていることもあって人々の生活様式そのものが変化していることを考慮して、間仕切りを一部変更している。
壁
既存の壁の主な仕上げは、聚楽土を塗った聚楽壁とベニヤ板に木目のプリントを施したような新建材だった。
聚楽壁に代わる壁の素材として選んだのは珪藻土。和室、ホールと廊下の聚楽壁はすべて剥がしてしまい、下塗りをしてから藁入りの珪藻土で仕上げた。
新建材の部分は、下処理をした後に調湿と消臭効果のある珪藻土を使用。
さらに床から一定の高さまでは厚さ12㎜の無垢の杉板を用い、ヴィンテージ感が溢れるシャビー塗装を施した。
異なる素材を組み合わせることで、ややもすると単調になりがちな空間に動きが生まれてくる。
床
床に関しては、経年劣化によって根太(床材をはるための下地)や大引き(根太を支える部材)の交換が必要な部分もあったが、基本的には既存の床を下地代わりに作業を進めた。
1&2階のホール、ダイニング・キッチン、洗面所など使用頻度が高かったり、過ごす時間が長い場所にはスウェーデンパインを用いた。
厚さ15㎜の無垢材である。スウェーデンパインは伐採される時点で通常樹齢80年以上。
時間を掛けて成長してきたので加工しても安定感があり、そのうえ弾力性に優れているため無垢材にありがちな反りや割れなどが少ないのが特徴。
樹脂も多く含んでおり、時が経つにつれ樹脂が表面に浮き上がり艶と輝きがさらに増してくる喜びも感じられる。
1階洋室の床には杉板を使用した。厚さ12㎜でこれも無垢材で、それにシャビー塗装を施した。外国産の木材には前述のように、その素材そのものが持つ利点がある。
しかし日本古来の木材には、やはり日本の四季の中で育くまれてきただけに、環境に合った特別なメリットが多いのである。
調湿性が高い杉は、湿度が高くなると組織内に湿気を吸収する。夏場でもサラッとしてベタつく感覚がない。また組織内に空気を含む性質があるので断熱性能が高く、冬場は暖かく感じるのである。
さらに、これは感覚的におわかりと思われるが、杉は柔らかいので転倒したとしても衝撃が最小限で済み、よちよち歩きの赤ちゃんやご高齢の方がいらっしゃる家庭には最適である。
逆にメリットの裏返しで、柔らかいために傷が付きやすい、あるいは汚れやすい等のデメリットもあげられるが、傷や汚れも「家族がここで生活していた証」と素敵な思い出に変えてゆくことができる素材でもある。
2階和室の広縁には、厚さ15㎜の桧を選び自然塗装で仕上げた。 桧は、杉よりも重くて硬いが、桧が放つ独特の香りにはリラックス効果がある。そして何より高級感を醸し出してくれる。
ドア
空間を区切り、その空間へアクセスするための機能を確保するのがドア一般的な役割である。
脇役となることが多いが、中野の家では使われることもなくひっそりと眠っていたドアが”主役”と言っていい程の存在感を持つことになった。
ダイニング・キッチンと洗面所を区切るため新たにドアを設けることにした。
素材となったのはヴィンテージハウスのアトリエに保管されていた古びたものだった。
周囲の雰囲気に溶け込むように、まず表面にラフ加工を施す。そして天然素材で作られているミルクペイントのホワイトを使って全体を塗装すると、それまではむしろ”武骨”という言葉が似合っていたドアが、アンティーク感とともにその表情がぐっと柔らかなものに変化した。
さらにロンドンの蚤の市で手に入れたステンドグラスを組み込んだ。グリーンベースがさわやかなステンドグラス。その周囲を巡るモールディング(縁取り)がさり気ないアクセントとなっている。
キッチン
キッチン設備はタカラスタンダード製。しかし30年以上前から使われてきたため傷みも目立った。
そこで再生のために選んだのは、「扉は交換するものの、その他の部分は徹底的に磨きあげる」という方法である。
扉は、構造用の下地材として使用されることの多いラーチ合板を用いることに。
と言っても、そのまま単純に使うわけではなく”浮造り”という木目が浮き上がるように加工されたものにエイジング塗装を施した。
敢えてラフに仕上げることで既存の部分との違和感を消している。
くすんでしまっているステンレスシンクと天板や水栓を含めた金属部分はプロの技術で徹底的に磨きあげた。
昭和の雰囲気を持つ設備がきらきらと輝いていると、懐かしさと新しさの味わいあるハーモニーが聞こえてくる。